117話 クロイタンへ向かう船の中で、ルーはカルロイの好きなものと嫌いなものについて尋ねました。
カルロイは、
好きなものは特にないと答えました。
彼の幼い頃、
周りの人たちは皆同じように、
自分が持っているものが
一番貴重で良いものだと
口を揃えて言いましたが、
カルロイには、その全てが虚しくて
何の感動も
呼び起こされませんでした。
これらに、ようやく意味が
できたのは、
分かち合いたい人ができてからでした。
その時、カルロイは初めて、
自分の持っているものに感謝しました。
それだけ、与えられるものが
多いという意味だからでした。
それでカルロイは、その日以来、
その全てをルーに与えられる日を
待っていました。
それなのに、なぜ、こんなに
遠回りする必要があったのかと
ため息をつきましたが、
彼女に戻って来てもらうことは
本当に正しい事なのかと考えると
カルロイの表情は暗くなり、
俯いてしまいました。
ルーは、そんなカルロイを見て、
どこか具合が悪いのかと尋ねました。
カルロイは、
違う、大丈夫だと答えました。
ルーは、
そんなカルロイを抱き締めると
彼は驚き、手が震えました。
ルーはカルロイに、
大丈夫だと言いました。
カルロイは、
ルーの肩に頭をもたれながら、
大丈夫ではない。
ルーにとっては、
一番完全な自分でも、
足りないような気がするけれど、
すでに自分の過去が自分を
その半分にも満たない人間に
してしまった。
それなのに、自分は
リリアンを求めてしまう・・・と
考えていると、ルーはカルロイに
苦しまなくてもいいと言いました。
カルロイはルーから離れると、
それら全てを経験しても、
自分にこんなに優しい言葉を
かけてくれる人に、
自分の残りの人生を全てかけて、
ルーが彼女の選択を
後悔しないようにする。
ルーが自分に会ったことを、
不幸や不運な事故だと
思わないようにすると決意し、
彼女の手の甲にキスをしました。
数日後、
ベッドの上に座っているルーは
カルロイに、
今日は、ここで寝るようにと
言いました。
しかし、彼は、
酔い止めの薬を持って来ると言って
ルーに背を向けました。
しかし、ルーは怒った顔で、
薬はいらない。
昼に飲んだから大丈夫。
乗り物酔いのせいで、自分が
こんなことを言っていると思うのか。
眠くなったら、
寝室へ行って寝ろと言っているのに、
行かないで、
なぜ、いつも自分のそばに座って
ウトウトしているのかと尋ねると、
カルロイは頭を掻きながら、
自分が寝てしまったことも
気づかなかったと言ったはずだと
答えました。
その言葉にルーは、
それなら、
むしろここで寝るようにと
言いました。
カルロイは返事をしませんでした。
ルーは、ため息をつきました。
一昨日、カルロイは、
ルーが悪夢を見るのを見て驚き、
彼女は、その時のカルロイの顔を見て、
もっと驚きました。
悪夢の内容も全て忘れてしまったけれど
カルロイは自分のことを心配して
あのようにするのだろうと
思いました。
ルーは再びため息をつくと、
カルロイは自分のために
何でもすると言った。
それなのに、自分の言うことを
1つも聞いてくれないし、
どんなことでも、
2度も3度も言わないと
聞いてくれない。
カルロイは、
嘘ばかりついていると責めると、
その言葉が、
グサッと刺さったカルロイは、
ルーに迷惑をかけると思い
そのようにしたと言い訳をして、
ベッドの上に上がりました。
ルーは、カルロイがそうしている方が
迷惑だと言い返しました。
そして、赤い顔をして、
布団の中に入ろうとしているカルロイに
ルーは、
どうして、そんな顔をしているのかと
尋ねました。
カルロイは、
善良に生きるのは大変そうだ。
リリアンはすごいと思っていたと
答えました。
ルーは、
カルロイは一体自分の何を見て
善良だと思っているのかと思いながら
彼を見ていると、カルロイは
布団で半分顔を隠し、
顔を赤くしたまま、
なぜ、そのように見つめるのか。
見ないで欲しいと頼みました。
ルーは、カルロイが子供の頃、
自分のことを
犯罪者を手伝っているくせにと
非難したり、
パンをあげれば、
へらず口をたたいたりなど、
癇癪を起こす時に、
このような口調だったことを
思い出しました。
ルーはカルロイの額を叩き、
全然、変わっていないと言いました。
カルロイは額を押さえながら、
どうしたのか。
今、自分は、
とても努力しているのに、
急に叩くなんてひどいと
文句を言いました。
それに対して、ルーは
何を努力しているのか。
そして、これが
叩いたことになるのかと
反論しました。
カルロイは、
抱き締めるくらいは
いいのではないか。
やはりダメだよねと呟きました。
ルーは、一体カルロイは、
1人でずっと何を
ブツブツ言っているのかと
疑問に思っていると、
布団の中でカルロイの左手が
ルーの左手に触れました。
そして、ルーの手首を握ると、
彼女の手の甲にキスをしました。
ルーは、
カルロイのその仕草について
訳が分からないようでした。
一方、カルロイは、
リリアンが自分のことを
飼っている子犬ぐらいにしか
思っていないのではないかと思い
がっかりし、
ため息をつきました。
それでも、カルロイはルーに
抱いて寝てもいいかと尋ねました。
ルーが承知すると、カルロイは
ルーの身体の下に自分の腕を入れ
少しずつルーを引き寄せ、
彼女が温かいと呟くと、
ギュッと抱き締めました。
ルーは、息が詰まると抗議しました。
ルーは顔を真っ赤にしながら
見るものは見た同士なので、
抱き締められるくらい、
大したことはないと思っていたけれど
雰囲気が以前と違うので
変な気分になると思いました。
するとカルロイは、
自分の全ては
リリアンのものだから、
いいことだけを
たくさん口にするよう努力する。
リリアンが全て、
受け入れられるようにと呟きました。
ルーは、
カルロイこそ自分のために
彼自身の気を遣うようにと
言いました。
カルロイはルーの額に
キスをしながら、
自分のためにそうしていると
告げました。
もうすぐソルタ港に到着するので
事前に下船の準備をして欲しいと
叫び声が聞こえました。
その声で、ルーは目を覚ましましたが
カルロイはルーを抱き締めたまま
起きないでと頼みました。
そして、リリアンを
死ぬまで抱いたままでいたい。
絶対にリリアンより先に死なない。
リリアンが死んだ一日後、
いや一時間後に死ぬと呟くと
ルーは、勝手に自分を死なせるなと
文句を言いました。
しかし、カルロイは
ルーの頭を撫でながら、
自分が先に死んだら、
リリアンを抱いて逝けないと
言いました。
ルーは、
本当にカルロイはどうしたのかと
慌てました。
カルロイは
ルーと同じ布団で寝たら、
彼女を抱きたくなる気持ちを
抑えきれなくなるのではないかと
心配していたと思うのですが、
ルーは、カルロイの保護者のように
振る舞い、カルロイの気持ちを
全く理解できないのが面白かったです。
おそらくルーとカルロイは
同じベッドに寝ただけで、
何もなかったと思いますが、
今回のようなことが続いて、
二人の距離がさらに
縮まっていくことを期待しています。
ただ、ここまでカルロイが
デレデレしていることを、
ルーが負担に思わなければいいと
思います。