840話 ラティルとゲスターがじゃれ合っているのを見て、ザイシンは心を痛めました。
◇ささやかな用途◇
誰かを嫉妬する気持ちを、
聖職者が抱くべきではない。
ザイシンは、
無理矢理、そのように考えながら、
良い方向に考えようと努力しました。
ザイシンは、
憂鬱な気分を晴らすために
このレタスはどこで手に入れたのかと
明るく叫びました。
一度、大声で叫ぶと、
幸いにも心が少し晴れました。
なぜ、急に大声を出すの?
ラティルは、
ザイシンが突然叫んだのが面白くて
笑いました。
耳が赤く変わったザイシンの姿が
可愛く思われました。
ゲスターは嘲笑している口元を
手で覆い、優しい目で笑うと
自分で作ったと答えました。
ザイシンは、
まだ木のレタスの用途が分からず、
おお。そうなんですか。
不思議ですね。
と呟きました。
ゲスターは口の端を上げて
目を伏せました。
あれは、平凡な木のレタスではなく
ささやかな手伝いをしてくれる
機能がありました。
しかし、使い方や用途を
説明する代わりに、ゲスターは
ラティルがいたずらで塗った
クリームだけを
ハンカチで拭きました。
◇メラディムの忠告◇
ザイシンと皇帝のデートを
妨害したゲスターは、
満足して部屋を出ました。
ザイシンは賢くて善良でしたが、
宗教的価値観に縛られていました。
ザイシンの気持ちは
さらさら流れる水のように
皇帝に向かって
ゆっくり進んでいるので、
薄い板で水路を塞いでしまえば
すぐに止まると
ゲスターは考えていました。
さて、歩いている彼に向かって
おい!
と声をかけたメラディムが
近づいて来ました。
彼は、持って来た泡貝の貝殻を
ゲスターに差し出しました。
彼は貝殻を受け取ると
眉をつり上げました。
これは、彼がティトゥに渡した
宝物でした。
ゲスターは、
奪ったのか?
と尋ねると笑い出しました。
メラディムは、
そんなはずがないと、
きっぱりと線を引きました。
彼は、このような宝物で
血人魚を惑わして誘惑するなと
ゲスターに頼みに来たのでした。
しかし、それを話す前に、
メラディムはザイシンを発見しました。
彼は遠くから
こちらをぼんやり眺めていましたが
表情が、いつものザイシンではなく
苦痛に沈んでいました。
メラディムはため息をつくと、
辛うじて手に入れた幸せを
逃したくないなら、
その欲心を捨てたほうがいいと
忠告しました。
ゲスターの目が
半月のように曲がりました。
彼は、
メラディムが何と言っても大丈夫。
自分は今、愛のために
寛大になっているからと
返事をしました。
メラディムは、
寛大になった人が
おとなしい人間をバカにするのかと
尋ねて、遠くに立っているザイシンを
目で示しました。
メラディムは
人間が好きではありませんでしたが
ザイシンは、
本当に善良な人間でした。
ゲスターは、
自分のものに触れなければ、
バカにしないと
優しく笑いながら言いました。
それは本当でした。
ゲスターが
メラディムに優しく接するのも、
彼が見たところ、メラディムは
ラトラシルを友人として
扱っていたからでした。
メラディムは、
ロードはゲスターのものではないと
抗議しましたが、ゲスターは
愛する人を独占したいのは
当たり前ではないかと反論しました。
メラディムは、
それならば、
側室に入ってくるべきではなかった。
志願して
入って来たのではなかったかと
尋ねました。
ゲスターは、
愛する人に会いに来たと答えました。
メラディムは、
とにかく、来たからには
一線を超えるなと警告すると、
ゲスターは、
じっとしている側室を
攻撃したりしない。
花束の飾りでいる側室まで
手を出したりしないと言いました。
メラディムは、
自分は何の花なのかと尋ねました。
ゲスターは
金魚草だと答えました。
ゲスターは、自分が望むことが
それほど不可能な願いだとは
思いませんでした。
彼はただ一人を愛し、
自分だけ愛されたいだけでした。
メラディムは鼻で笑いましたが
とにかく彼はギルゴールが
一番嫌いだったので、
彼が皇配になるよりは、
ゲスターの方がマシでした。
アウエル・キクレンが登場したのを見て
ロードにも警告したりと、
彼は、最低限の義務を果たしたので、
その後のことは、
ロードが解決すべきことでした。
勝手にしろと言い残すと
メラディムは湖畔に戻りましたが
ギルゴールが情熱的に
皇配候補に上がったにしては、
とても静かなことに
ふと、疑問を抱きました。
奴も、こんなに静かになった後は
必ず、また何かをやらかすのにと
思いました。
その日から数日間、ザイシンは、
自分の心に浮かんだ嫉妬心を
消すために、全力を尽くしました。
彼はいつもより運動をたくさんし、
もっと情熱的に祈りました。
ああ、神よ!
この心に沸き上がる熱気を
どうすればいいですか!
陛下を見る時には心がざわめき、
陛下が他の男を見る時には
このように苦しくなるので
耐え難いです!
ザイシンが、
あまりにも声を大きくして
祈ったため、彼の現在の心境は
ハーレムで過ごす全ての宮廷人たちの
知るところとなりました。
ラティルもこれを伝え聞いて
顔が真っ赤になりました。
自分が恥ずかしいクーベルは
神様がうるさがると思うと言って
ザイシンを止めましたが、
彼は自分の自然な心が
少しも恥ずかしくありませんでした。
百花も、無理に笑みを浮かべながら
神様に話さずに
皇帝の所へ行って話すよう勧めましたが
ザイシンは
しきりに神だけに祈りました。
けれども、
このように堂々としている
ザイシンさえも、他の男の中で
ゲスターに、
一番会いたくないという話だけは
できませんでした。
一人の人間を憎まないように
努力はしたけれど、
ゲスターにもらった
正体不明のねじりレタスを見る度に、
ザイシンは
血が逆流するような怒りを
覚えました。
そのように時は流れ、
いつの間にかタッシールが去って
1ヶ月が過ぎました。
ラナムンは相変わらず無事で、
ギルゴールは依然として
怪しげに静かでした。
声を上げて祈った効果があったのか
ザイシンのざわめく心も、
少し落ち着いていました。
ラティルは、依然として
タッシールを待ちながらも、
ゲスターと親しくしていました。
ゲスターは照れくさそうな姿で
いつもラティルを迎え、
ラティルが後ろに退こうとすると、
ランスター伯爵の状態で
いきなり近づきました。
意外にも、
アウエル·キクレンの姿は
あまり現れませんでしたが、
ラティルが仕事に疲れていれば
その姿で歌を歌ってくれました。
ゲスターが
自分を騙したという怒りが収まると
ラティルは、皇配候補を巡り
再び悩み始めました。
やはりゲスターも
皇配候補に入れようか。
ゲスターほど
情熱的な皇配候補は
いないようだからと考えました。
ゲスターと同じくらい
情熱的な人はタッシールでしたが
彼はヘイレンを治療しに行った後、
連絡さえくれませんでした。
ラティルがアンジェス商団を通じて
連絡しようとしても無駄でした。
商団の人々は途方に暮れながら、
自分たちも、最近タッシールと
連絡が取れないと言い張りました。
そのように過ごしたある日、
ラティルは国務会議の時に、
ゲスターも
皇配候補に入れることにしたと
大臣たちの前で
ついに決定を下しました。
大臣たちは驚いてざわめきました。
ロルド宰相一派は、
ラティルの言葉に喜び、
にっこりと笑いました。
賢明な決断だと、
ロルド宰相の最側近が
嬉しそうな声で叫びました。
反面、アトラクシー公爵一派は、
競争力のある側室が
候補になったことが嫌で、
なぜ急に、心変わりしたのか。
ゲスターを皇配候補に入れるのは
あまりにも突然だ。
皇配候補は、3人ではなかったのかと
ラティルを止めようとしました。
しかし、彼女は、
もう決めたからと返事をしました。
他の人から見れば
驚くべきことでしたが、
ラティルが1ヵ月近く考えて
下した結論でした。
ラティルは
タッシールを信じていました。
しかし、彼から連絡もなく、
離れた目的も明らかにせず、
1ヵ月以上、席を外していました。
ラティルが
依然としてタッシールを、
皇配候補に置いているので
他の大臣たちの反発を
最大限、抑えている状態でした。
アトラクシー公爵は
気分を害しましたが、
渋々、受け入れました。
どうせ、
皇配候補に選ばれたところで、
皇帝が特別な特典を
与えるわけではありませんでした。
皇帝が自分だけの基準で
さらに何かを
調べてはいるだろうけれど、
公式的に皇配候補たちに
特別な任務を
与えたりしたわけではないので、
今後も、
このままの状態が維持されるだろう。
これ以上、変化はないだろうと
アトラクシー公爵は
必死に自分を慰めました。
ところが、ラティルは
試しに、皇配候補たちに
仕事を一つずつ任せてみるつもりだと
予想できなかった話を
切り出しました。
仕事を任せるなんて、
どういうことなのかと、
ゲスターの支持者たちも
ラナムンの支持者たちも
皇帝の急報に緊張しました。
侍従長も聞いていなかったので、
目を丸くしました。
ラティルは演壇の横に立つと
自分のお腹に片手を置きました。
夏になるにつれて、
服がますます薄くなったので、
臨月間近のお腹が
以前より、目立っていました。
ラティルは、
怪物関連のことで、
タナサンとショードポリ、月楼、
カリセン、ミロが
自分に助けを求めてきた。
いくら遠い国でも、
自分は一日以内で行って来ることが
できるからなのだろうけれど、
今は空を飛ぶのも
少し不便だと言いました。
ロルド宰相は、
ラティルの大きなお腹を見て、
目に見えて落ち込んでいました。
その子が
自分の孫ではないというのが
残念な様子でした。
ラティルは、
ロルド宰相を見なかったふりをして
反対側に首を回すと、
だから皇配候補たちに
行ってもらうようにするつもりだ。
皇配候補ではないけれど、
カリセンへは
クライン皇子に行ってもらうと
説明しました。
しかし、侍従長は
国ごとにタリウムとの親密度が違う。
特に、ミロは、
タリウムとの仲がとても悪いと
慎重に話に割り込みました。
ラティルは、
だから仲の良い国と仲の悪い国で
それぞれ似たような成果を出す場合は
仲の悪い国に行ってきた側室を
より高く評価することにすると
話しました。
大臣たちは、
互いに見つめ合いながら
首を横に振りました。
アトラクシー公爵は、
誰をどこに行かせるつもりなのか。
それとも、皇配候補たちが
直接、志願するのかと尋ねました。
それについて、ラティルは、
すでに自分で考えていたので、
ギルゴールには
ショードポリへ行ってもらうと
答えました。
ショードポリは
タリウムと仲が悪くないせいか、
大臣たちが
不満そうな表情をしました。
しかし、
ギルゴールがショードポリで
狼藉を働いたことで
指名手配されていると
ラティルが話すと、大臣たちの目が
大きな栗のように大きくなりました。
それが本当なら、
ギルゴールの試験難易度は
ミロに行く以上に高いと思いました。
次にラティルは、
タッシールはミロと告げました。
彼もミロとは悪縁でした。
ミロはタリウムと仲が悪いので、
誰が行っても
難易度が高いだろうけれど、
タッシールが行くと本当に最悪でした。
さらに、タッシールは
ここにいませんでした。
少しも大目に見ない選択肢に、
大臣たちは
乾いた唾を飲み込みました。
次にラティルは、
ゲスターはタナサンと告げました。
それを聞いたロルド宰相の顔に
皺が寄りました。
タナサンは、
黒魔術師のクリル男爵が、首都に
大きな被害を与えたことがありました。
そこに黒魔術師であることが
知られているゲスターを送るのは、
本当に心を決めて、
戦って来いということに
他なりませんでした。
ロルド宰相は、
小心者で臆病な息子が
人々に冷遇されて
傷つくことを考えると、
心が裂けるようでした。
そしてラナムンは
月楼に行くことになりました。
仲の悪い国ではないので
難易度は最も低かったけれど、
アトラクシー公爵一派の中に
笑う人はいませんでした。
成果が同じなら、
難しい所へ行って来た人に
高い点数を与えると
皇帝が言っていたからでした。
そうなると、いくらラナムンが
良い成果を上げても、他の側室が
仕事をうまく処理してくれば
ラナムンは無条件に
後ろに押し出される構造でした。
ラティルはにっこり笑って
大臣たちを見回しながら、
変えたい人はいるかと尋ねました。
メラディムは金魚草の発言に
吹き出してしまいました。
もしかして、
ゲスターがザイシンに渡した
捻じれたレタスの彫刻は、
ザイシンの嫉妬心を
呼び起こすものなのでしょうか?
捻じれた形が、心の捻じれを
引き起こすのだとしたら、
ザイシンは、
そのような感情を抱いたことに
罪悪感を覚えると思います。
善良なザイシンにさえ、
そんなことをするゲスターは
最悪です。
ラティルだけでなくロルド宰相にも
ゲスターが、
とんでもなく悪い奴であることを
知って欲しいです。
1カ月間、
タッシールから音沙汰が
ないからといって、
ゲスターと仲良くして、
彼を皇配候補にするなんて、
ラティルは、
まんまとゲスターの術中に
はまったみたいで、とても嫌です。
ラティルも、タッシールを
皇配候補のままにしておくために
ゲスターを
皇配候補にしたのでしょうけれど
騙されたことを簡単に許して
情熱的だと言う理由で
ゲスターを選ぶなんて、
考えが甘すぎると思います。
やはりゲスターに対抗できるのは
白魔術師しかいない。
1カ月の間、タッシールが
彼と共に、
ゲスターをぎゃふんと言わせるための
計画を練っていることを
期待しています。
shaoron-myanmyan様
RM様
mommy様
いつもコメントを
ありがとうございます。
ゲスターのターンは
あと10話ほど続きますので、
もう少し、辛抱してください。