自分時間を楽しく過ごす 再婚承認を要求しますの先読みネタバレ付き

子供の頃からマンガが大好き。マンガを読むことで自分時間を楽しく過ごしています。再婚承認を要求します、ハーレムの男たちを初めとして、マンガのネタバレを書いています。

バスティアン 121話 ネタバレ ノベル 原作 あらすじ 存在を認める

121話 オデットはどこへ行ったのでしょうか。

週末の遊園地は、

多くの行楽客で賑わっていました。

オデットは、ぼんやりとした顔で

周囲を見回しました。

ここがどこなのかを悟ると、

ため息のような失笑が漏れました。

足の向くままに辿り着いた場所が、

よりによって、ここだなんて、

度重なる不運が、

今はただ滑稽なだけでした。

 

しばらく躊躇っていたオデットは、

再び前に向かって

一歩を踏み出しました。

背後に置いて来た世界から

遠ざかることさえできれば、

どこでも構わないような気がしました。

どうせ目的地を見失ってから

もう、随分経つのだから、

そんなものは最初から

存在したことがなかったような

気もしました。

 

オデットは人混みに身を任せたまま

闇が降り始めた遊園地を歩きました。

通りで楽士たちが演奏する

楽しい音楽と人々の笑い声、

客を呼ぶ露店商の雄叫びが

肌寒い風に乗って伝わって来ました。

ほとんどの入場者は、

宮殿を見物するために

先を争って押しかけて行きました。

 

その群れから抜け出して

閑静な区域を歩いていたオデットは

甘い香りが漂ってくる露店の前で

釘付けになるように立ち止まりました。

綿菓子を売る屋台でした。

 

妖精の糸。

2年前のままの看板を前にすると

自ら列に並んで綿菓子を買ってくれた

あの日のバスティアンのことが

思い浮かびました。

 

手をつないで歩いた道。

色とりどりの明かりを灯した宮殿。

メリーゴーランドから流れて来た音楽。

覚えていることすら知らなかった

記憶も、その後に続きました。

壊れた過去の断片が

心を突き刺して来ましたが、

オデットは容易に、その場から

離れることができませんでした。

 

一口も食べずに落としてしまった

綿菓子を思い出すと、

ふと、空腹に襲われました。

自分でも当惑するほど、

突然で猛烈な欲求でした。

 

「一つ差し上げましょうか?」

満面の笑みを浮かべた露店の主人が

親切に話しかけて来ました。

何気なくカバンを探していたオデットは

その時になってようやく

自分が一文無しだという事実に

気づきました。

衝動的にホテルを飛び出したので

小銭一枚も持っていなかったし、

しかも、

コートも羽織っていない状態でした。

 

「いいえ、大丈夫です」と、

気まずい笑みを浮かべて

遠慮したオデットは、

急いで綿菓子の屋台の前を離れました。

肩に巻いたショールを

ギュッと前で合わせてみたものの、

冬に近づいた晩秋の夜の寒さを

防ぐのは無理でした。


もう帰らなければと思いました。

体調が優れない状態でした。

このまま風邪でも引けば、計画に

支障が出るかもしれませんでした。

オデットは、そのような危険を

冒すべきではないことを

よく知っていました。

それでも、結局、

足を止められない自分が、

どれほど愚かなのかも。

 

オデットは頑なに前だけを見て

歩いて行きました。

はしゃぐ子供たちを乗せた乗り物

脂っこくて甘い香りを漂わせる

露店を通り過ぎ、さらに遠くへ。

 

その愚かな散歩は、

これ以上、進む道がない地点に

到着して、ようやく終わりました。

オデットは道の端に立ち、

ゆっくりと頭を上げました。

遊園地の端にある観覧車が

夜空を照らしていました。

 

幸せそうな顔をした家族と恋人たちが

観覧車に乗り込んでは、

再び降りることを繰り返している間

オデットは1人で、ぼんやりと

その場に立ち尽くしていました。

 

ゆっくりと回転する

巨大な金色の車輪を眺める瞳は、

溢れんばかりの涙で

透明に膨らんでいました。

 

絶対にこの子を産んではいけない。

初めて妊娠を予感した瞬間、

オデットは、

すでに決心していました。

その考えは、もちろん今も

変わっていませんでした。

 

バスティアン・クラウヴィッツ

憎悪する女に

苦痛を与える目的で得た子供を、

愛するはずのない男でした。

父に見放された子供が、継母から、

どんな扱いを受けるかは

火を見るよりも明らかでした。

すでに、サンドリンは、

万が一、自分が、

あの男の子供を産んだら、

子供に申し訳なくて

胸が張り裂けるような多くのことが

起きるだろうと警告していました。

 

オデットは、

不幸と苦痛の中で生きていく

運命にある子供を

この世に出したくありませんでした。

バスティアンから逃れることに

成功したとしても同じでした。

一生不安に震えながら

隠れて暮らすことになるだろうし

それよりもっと怖いのは、

子供を完全に

愛せないかもしれないという

事実でした。

 

もし子供を憎むようにでもなったら、

それは、お互いに地獄を

プレゼントすることになるだろう。

それよりは、むしろ、

今終わらせる方がマシでした。

少なくとも、それは

自分だけの地獄になるから。

その考えも、依然として有効でした。

 

それなのに、なぜ?

オデットは自分を責め立てるように

自問しました。

 

結局、目的を果たせずに

病院を飛び出してしまいました。

頭より体が先に反応しました。

夢中で走って裏通りを抜け出すと、

待っていたかのように

吐き気がしました。

まるで自分を害そうとした母親への

子供の恨みのようでした。

 

戻らなければならないことを

知りながら、オデットは

そうすることができませんでした。

もしも体が大きく傷ついたら

逃げるのが難しくなるので、

フェリアに行って

決着をつけるという結論に

至ったけれど、

本当にそれが最善なのか

実は、よく分かりませんでした。

 

オデットは頭を下げて、

真っ赤に凍りついた手を見ました。

感覚を麻痺させるような

寒さの中でも、

ティラのお腹の中で踊っていた

子供の感触だけは、依然として

生々しく残っていました。

永遠に消えない烙印のような

記憶でした。

 

オデットは、この子を産むのは

狂気の沙汰だという事実を

明確に認識していました。

それでも最後の一歩を

踏み出すことができない自分に

耐え難くなった瞬間、

何か手伝いが必要かと

聞いたことのない声が

聞こえて来ました。

観覧車に乗りに行く途中だった

若い夫婦が、オデットの方へ

近づいて来ました。

父親の胸に抱かれた子供は、 

アルマと同じ年頃に見えました。

両親に均等に似ている

可愛い少女でした。


オデットは答えようとして

口を開きましたが、

声を出すことができませんでした。

ただ力なく笑って

首を横に振っただけでした。

 

お辞儀をすることで

感謝の意を伝えたオデットは、

非常に心配そうな眼差しを

送っている彼らの横を通り過ぎて

近くのベンチへ向かいました。

もう、そろそろ帰るべき時だと

判断したけれど、今のところ

体をしっかり支えられる自信が

ありませんでした。

 

ひとまず休憩する方が良いという

結論を下したオデットは、

ベンチの端に座って

ショールを合わせ直しました。

 

向かいにある屋台では

温かい飲み物を売っていました。

おそらくバスティアンが

ココアを買って来てくれた

場所のようでした。

 

口の中いっぱいに唾が溜まると

悲しい笑いがこぼれました。

どうして、

思い出したくない記憶の中の

食べ物ばかり渇望してしまうのか、

自分でも分かりませんでした。

 

もしかして子供が

欲しがっているのだろうか。

ふと浮かんだ疑問が、

心を深く搔きむしりました。

 

きちんと食べられなくなってから

随分経つので、

お腹の中の子供も同じだと思いました。

自分が消えてくれることだけを願う

母親にしがみついて。

それでも屈することなく耐えながら

飢えたまま、

虐待されてきたも同然でした。

 

オデットは、

道に迷った子供のように

途方に暮れた目を上げて

観覧車を見つめました。

ちょうど乗ったばかりの

先ほどの家族が空へと昇っていました。

じっとその光景を見守っていた

オデットは、

擦り合わせて温かくなった手で

そっとお腹を包みました。

寒さを紛らすには不十分でしたが、

それでも温かでした。

 

闇が深まるにつれて、

遊園地の明かりは、

一層、鮮明になりました。

オデットは、

初めて存在を認めた子供と共に

その光に染まった目を上げ、

溢れた涙が乾き、

微かな温もりが冷めるまで

美しい偽りの世界を眺めました。

すでに2度も夕食の時間を延ばして来た

侍従は、

ホテル側に話をして、

近くを捜索してみた方が

いいのではないかと、

慎重に提案しました。

 

バスティアンは

検討中のファイルを閉じて

時計を確認しました。

8時。これ以上

手をこまねいているわけにはいかない

時間でした。

バスティアンは、

無用な騒ぎを起こす必要はないと

返事をしました。

 

侍従は、

「しかし、奥様がまだ・・・」

と言うと、バスティアンは、

妻は自分が探して来ると返事をし

落ち着いて机の前から

立ち上がりました。

ハンスは、

急いでコートを差し出すことで

自分の役目を果たしました。

 

それを受け取ったバスティアンは

すぐに客室を出ました。

ベッカー夫妻は、

まだホテルの1階のレストランにいて

友達を集めて

結婚前夜のパーティーを

楽しんでいました。

ただ幸せそうなティラの顔を見ると

オデットが

ますます滑稽に思えました。

 

報われない愛だとしても

構わないと言っていたっけ?

 

その高潔な願いが叶ったことを

記念して、祝杯でも

挙げねばならないような夜でした。

 

バスティアンはコートを羽織って

ホテルのロビーを横切りました。

どうせ特に役に立たないティラは

何も知らずに幸せでいられるように

放っておきました。

全てを捧げて献身しても、

こんな扱いしか受けられない

オデットの報われない愛が

さらに悲惨なものになるように。


街に出たバスティアンは、

夜空の向こうで煌めいている

観覧車に向かって進み始めました。

そこだと思いました。

これといった根拠もないけれど

ただ、そう信じられました。

 

その本能的な直感が正しかったことを

確認するまで、それほど長い時間は

必要ありませんでした。

一緒に行った

遊園地に続く道の向こうから

オデットが近づいて来ました。

顔を確認しにくい距離でしたが、

バスティアンは、

一目で、その女を見抜きました。

 

凍え死のうという決意が

まだ有効だったのか、オデットは

とんでもない服装をしていました。

スカートとブラウス、そして

肩に巻いたショール1枚が全て。

すでに冬の入り口に入った

北部の夜の街を、

あんな格好で歩き回る女を

到底、正気だとは思えませんでした。

 

名前を呼ぼうとして

気が変わったバスティアンは、

ガス灯の下に立って

オデットを待ちました。

疲れ切ったラバのように

とぼとぼ歩きながらも、オデットは

まっすぐに伸ばした背筋を

崩しませんでした。

 

愚かな意地を張って歩いていた彼女は

互いの影が触れるほど

近い距離まで近づいてから

ようやく顔を上げました。

空っぽの瞳が

バスティアンをきちんと収めるまで、

さらに少しの時間が必要でした。

 

「・・・バスティアン?」

血の気のない唇で囁く名前が

冷たい風に乗って伝わって来ました。

 

真っ赤に凍りついた両手を

きちんと合わせて握ったオデットは、

何も言わずに

バスティアンを見つめるだけでした。

大きな目を瞬かせる度に

揺れる睫毛の影が、

女をさらに寂しく見せました。

 

人生を売る取引をし、

その取引を台無しにする裏切りをし

そして元の木阿弥。

 

あれほど必死に足掻いたというのに

父親の賭博の借金のために

売られてきた頃から

抜け出せていないような

オデットの姿が、

バスティアンの瞳に浮かんだ幻滅を

より深くさせました。

それ以上に滑稽なのは、それでもなお

有難くもない幸運を握り締めている

自分自身でしたが。

 

静かなため息をついたバスティアンは

自分のコートを脱いで、

震えているオデットを

包み込みました。

拒否する気力さえ

失ったかのような女は、おとなしく

その場に留まっていました。

すぐに気を失ってもおかしくない

様子でした。

 

バスティアンは落ち着いた手つきで

コートを閉じました。

次第に荒くなる息を吐き出していた

オデットがふらついたのは、

最後のボタンをかけた瞬間でした。

 

バスティアンは、

長い彷徨を終えた女を抱いて

ホテルへ向かいました。

正面入口の方がずっと近かったけれど

彼は遠回りして裏口を選びました。

ティラに

姉の不幸を知らせないことで、

この女の絶望と苦痛を、完全に

自分だけのものにするためでした。

 

皇帝は、

役目を終えたチェスの駒を捨てた。

父親は息を引き取った。

そして妹は

姉を生贄にして得た幸せを求めて

旅立って行く。

 

孤島のような身となったオデットには

もう彼だけでした。

バスティアンは、

この女の唯一の救世主であり

また、審判者でもありました。

満足のいく収入でした。

f:id:myuieri:20210206060839j:plain

f:id:myuieri:20210206071517p:plain

まずは、お腹の赤ちゃんが

無事で良かったです。

 

ヘレネはティラを孤児院に送ることを

反対はしたけれど、ティラに対して

かなり冷たく

当たっていたのではないかと思います。

オデットは、それを知っていて、

サンドリンも、

そうなることが分かっていたので

自分の子供をティラと同じ目に

遭わせないために、

ひょっとしたら、もっとひどい目に

遭うかもしれないと思って

バスティアンから

逃げ出そうとしていたのだと、

ようやく理解できました。

 

オデットは、2年前、

バスティアンと遊園地に

行くことができて、

嬉しかったのだと思います。

綿あめは落としてしまったけれど

ココアも買ってもらえて

嬉しかったのだと思います。

だから、その思い出に浸りたくて

つい遊園地に

足が向いてしまったのではないかと

思いました。

 

バスティアンは、

オデットにとって

自分が一番になること、

彼女の目が自分だけに向くことを

望んでいるのではないかと

思いました。

彼女の裏切りに傷つき、

恨む気持ちは、まだあるけれど、

彼女を救えるのは自分だけだという

傲慢さを感じました。

f:id:myuieri:20210206060839j:plain